21才で経験人数3人の「風の歌を聴け」

村上春樹さんが日本を代表する作家であることに、異論を唱える人はまずいないでしょう。毎年のようにノーベル文学賞の候補と騒がれています。そんな村上さんも小説家としてのデビュー当時には、必ずしも評価されていたわけではありません。丸谷才一さんのように強く推す作家がいたものの、大江健三郎さんのように完全に才能を否定した人もいます。1979年にデビューし多くのファンをつくり、80年代には「ノルウェイの森」が大ベストセラーとなりましたが、1990年代半ばまでは、文壇の中では「村上を肯定するのは三流批評家」という雰囲気があったそうです。

村上作品が国際的に認められるようになって、ようやく日本の文壇も村上さんを認めるようになりました。今では、村上作品を否定する批評家はほとんどいなくなったでしょう。「風の歌を聴け」は数ある作品の中でも、最初に映画化された小説です。室井滋さんがいきなりヌードデビューした作品でもあります。

21才までに経験したのは3人でした

主人公の「僕」は21才。高校時代にクラスメートと初体験をすませ、大学に入学後にヒッピーの女の子とセックスします。3人目の相手は、大学の図書館で出会ったフランス文学専攻の女の子。彼女は、「僕」のペニスを「あなたのレーゾン・デートル」とよびました。「僕」の存在意義はセックスすることだ、ということなのでしょう。彼女と「僕」は8か月の間に54回、週におよそ2回程度の頻度で性交しますが、その後彼女は自殺をしてしまいます。こうした「事件」も特に驚きもなくたんたんと描かれているのは、この小説の特徴と言えるかもしれません。

作品の冒頭は「完ぺきな文章などといったものは存在しない」ではじまり、デレク・ハートフィールドなる架空の小説家の話が登場します。「鼠」「ジェイ」といった何者なのかがよくわからない人物も現れ、物語全体が現実感のないまま進行していきます。これといったストーリーがない作品のようでもあり、しっかりとした物語になっているようにも感じられる作品です。

室井滋がデビュー作でいきなりヌードになりました

「風の歌を聴け」は最初に映画化された作品です。監督は、当時は新進気鋭だった大森一樹さん。村上春樹さんの中学校の後輩です。主演は小林薫さんで、真行寺君枝さんも主役級で出演。「僕」が8か月で54回セックスしたお相手の女の子を、新人の室井滋さんが演じています。室井さんといえば、まじめな役が多いですし、ヌードになることはありませんが、この作品では上半身裸で登場しています。室井滋さんのヌードがみられる貴重な映画とも言えます。

村上春樹さんは映画の出来に満足していたようですが、残念ながら一般の人にはそれほど注目はされませんでした。今でも、マニアックな人気はあるようですが、村上ファンの中でも、映画になっていることすら知らない人の方が多いのではないでしょうか。

小説も映画も完成度は高いとは言えませんが、村上春樹のデビュー作として根強い人気もある作品です。