アブノーマルな性の世界を操った谷崎潤一郎

谷崎潤一郎は、ノーベル賞の候補にもなったことのある、わが国を代表する小説家のひとりです。痴人の愛、卍、春琴抄、少将滋幹の母、瘋癲老人日記、細雪などなどの名作の数々を著わし、熱烈なファンも大勢います。性をたくみに扱い、マゾヒスティックで刺激的な作品も数多く残しました。大胆にセックスを描きながらも、決してエロ小説になることはなく、文学としての風格と深みを失わない作品ばかりです。私生活でも、自分の妻を作家仲間の佐藤春夫にゆずるという「大事件」も起こしました。

1年飛び級したのに学年トップの「神童」高校生

谷崎潤一郎は子どもの頃から優秀で将来を嘱望される子どもでした。裕福な家庭に生まれましたが、小学生時代に家が傾き経済的に進学が難しい状況になると、教師たちの助けによって、家庭教師をしながら中学進学を果たします。中学2年のときには突出した才能に気づいた校長のすすめによっていったん中学を退学し、3年生への編入試験を受けて合格。一年飛び級をして進級した形となります。一年上の学年に入ったにもかかわらず、学年でトップの成績をとり、「神童」の名をほしいままにしました。

旧制一校から東大に進学したものの、学費が払えなくなって中途退学。その間に、「刺青」などの小説を次々と発表して注目を集めます。もともと東京生まれの東京育ちでしたが、関東大震災を機に大阪に移り住み、「痴人の愛」などの斬新でエロティック、アブノーマルな性の世界を描いた作品を著わすようになります。谷崎の描くセックスは、単にエロチックなだけではなく、美しく妖艶でもあり、それがゆえに幻想的な世界となっています。独特の谷崎ワールドをつくりあげた点は、同時代の他の作家とは全く異なっていたと言えるでしょう。谷崎の突出した特徴です。

私生活でもアブノーマルな性の世界を体験していた!?

谷崎はアブノーマルな性の描写を得意としましたが、そこには実生活での経験がいくらか反映されていたと考えられます。「痴人の愛」は、美しい少女におぼれた男を描いた作品ですが、実生活では、妻・千代子の妹せい子を溺愛し、自宅に入れて育てています。

「痴人の愛」のモデルはせい子とされており、実際に性的関係も結んでいたものと考えられます。それがもとで妻との関係が不仲となり、妻千代子は谷崎の同僚である佐藤春夫と密通してしまいました。佐藤春夫と千代子とが不倫関係になると、谷崎は千代子を春夫にゆずることを決め、3人連名で宣言文を書き世間に公表しました。これが「細君譲渡事件」として話題になります。

その後、谷崎は二度結婚しましたが、3人目の妻松子が妊娠すると、妊婦の姿が美しくないという理由から中絶させたという「伝説」もあります。

谷崎の描いた審美的・耽美的世界は独特のもので、エロティックで美しいだけでなく、もの悲しさも含んでいます。世界の性愛文学の中でも突出した作品群と言えるのではないでしょうか。