「限りなく透明に近いブルー」は「クリトリスにバターを」だった!?

「芥川龍之介賞」の選考でこれほどもめた例は、現在に至るまでありません。審査員の評価はまっぷたつ。ケンケンガクガクの議論のすえの多数決で受賞が決まったといういきさつがありました。審査員の一人は、「限りなく透明に近いブルー」というタイトルそのものに疑問を呈し、生理的な嫌悪感も示しました。

しかし、売上部数は350万部を超え、芥川賞受賞作品のなかではダントツトップの人気作品となっています。

鮮烈、強烈、視覚的、感覚的なタイトルが、時代のハートをぐっととらえた

村上龍さんが芥川賞を受賞したのは1976年。70年代前半の受賞作のタイトルを並べてみます。

「無明長夜」「プレオー8の夜明け」「杳子」「砧をうつ女」「オキナワの少年」「いつか汽笛を鳴らして」「誰かが触った」「ベティさんの庭」「れくいえむ」「鶸」「草のつるぎ」「月山」「あの夕陽」「土の器」「祭りの場」「岬」「志賀島」

いずれも堅苦しいタイトルです。50年代、60年代には、もう少しおもしろい名前の小説がありました。石原慎太郎の「太陽の季節」、芝田翔の「されどわれらが日々」、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」など、ちょっと目を引きます。

賞の人気がすこし停滞して、「芥川賞はおもしろくない」といわれはじめた時期に、突如として登場した画期的な作品です。内容よりも前に、タイトルで読者のハートをグッととらえて離しません。美大の出身者らしい、みごとに美的なネーミングです。

小説の元々の題名は「クリトリスにバターを」というものでしたが、群像新人文学賞に応募する直前に変更されたそうです。原題のままだったら、芥川賞の受賞はなかったことでしょう。

映画化は大失敗してしまいました

村上龍さんはすばらしい小説家です。しかし、みずからの多才ぶりに慢心してしまい、本作品を監督して映画化してしまいました。残念ながら興行的にはまったくの大失敗で、観たことのある人をさがすのが大変なほど、注目度の低い作品です。小説で表現するのと映像で表現するのとは、根本的に異なる部分があるのでしょう。元々、本作品は、映像向きではなかったともいえるかもしれません。

映画が駄作だったとはいえ、小説自体の価値が下がるわけではありません。詩的な表現や、主人公の存在感のない客観性など、突出した文体が魅力のストーリーです。

芥川賞に革命的な衝撃をあたえた、70年代を代表する画期的作品です。ぜひ、読んでみましょう。