セクシーで自由なオンナに振り回される悦び、痴人の愛

「文豪」と呼ばれた谷崎純一郎の数ある傑作の中のひとつ「痴人の愛」。もともとは、1924年から「大阪朝日新聞」に連載された新聞小説です。セクシーな美少女におぼれていくサラリーマンの異常な愛欲をえがいた大傑作。センセーショナルな内容で、登場人物ナオミのイメージから、自らの思いのまま自由に生きる女性像を表す「ナオミズム」という流行語が生まれました。

愛の泥沼、愛への屈服、陶酔をいじらしいほどに、しかも淡々と描いた名作です。谷崎自身が「私小説」と語ったと言われる通り、私生活との密接な関係も想像されます。

ノーベル賞候補にもなった日本を代表する小説家

谷崎潤一郎は幼いころから「神童」と騒がれた天才です。裕福な家に生まれますが、小学生時代に家業が傾いたため進学があやうくなります。学校教師たちのあっせんで家庭教師の口をもらい中学に進学すると、あまりにも成績優秀なため校長から飛び級を勧められて、1年生から3年生に進級。そこでも首席となります。その後、一高から東大文学部へ進学するものの学費未納で中退。そのころに書いた小説が、永井荷風から絶賛され、当時全盛だった「自然主義」とは異なる、ストーリー重視の作品を次々と発表しました。

生涯3度の結婚をしていますが、2番目の妻千代の妹三千代が「痴人の愛」のナオミのモデルとされています。千代と結婚した際に妹を谷崎が引き取り学校に通わせました。美人の三千代はその後映画女優として活躍しますが、このあたりの経緯は作品と重なります。谷崎が義理の妹である三千代に恋心をもっていたか、不倫していたかは不明です。

妻千代は後に佐藤春夫と不倫関係となったため谷崎は佐藤に千代を譲渡して、3人連名で知人たちにその旨を報告します。これが新聞に「細君譲渡事件」として騒がれることとなりました。谷崎は、私生活でもセンセーショナルでした。79歳まで生きた谷崎は壮年期には高血圧がひどくなり執筆が滞るほどだったといいますから、さすがに性的な活動もおとなしいものになっていたでしょうが、もし彼が現在に生きていたらバイアグラの力を借りてでも女性と床を共にしていたかもしれません。

まさに「痴人」の愛

谷崎作品のおもしろさを典型的にみせてくれる作品です。主人公は28才のマジメなサラリーマン。カフェのウェイトレスをしていた15才のナオミに一目ぼれ。養女として家に迎え入れて教養や音楽などを身に着けさせ、レディに育てていきます。

ナオミはどんどん美しくなり主人公はたまらず結婚し愛欲におぼれます。しかし、もともと奔放な性格のナオミは次々と他の男たちと密会をするようになります。コツコツ働く真面目な男と、自由気ままに生きるセクシーな美人。主人公は、次第にマゾヒスティックにナオミに支配されていきます。

90年前の作品とは思えないほどの刺激的なものがたり。20世紀を代表する大傑作です。