セックスの音で目覚めた少女の話、未亡人の一年

ジョン・アーヴィングといえば、「ホテル・ニューハンプシャー」や「ガープの世界」が有名ですが、「未亡人の一年」は、それらに負けず劣らずの名作。小説の冒頭、4歳の少女ルースが「セックスの音で目を覚ましました」というように、あからさまで、ドキッとさせる表現が使われるところなど、アーヴィング一流の文章を楽しめます。エロティックで、コミカルでセンチメンタルという、超ユニークな小説です。

アーヴィングは現代のゴシック小説家

ジョン・アーヴィングは1942年生まれの現代小説家ながら古風なスタイルの作家。19世紀のゴシック小説を愛好し、チャールズ・ディケンズのような物語性の高い、「人の一生を描ききる」タイプの名作をいくつも書いています。

決して古臭いわけではなく文体もストーリー展開も斬新で、時代の先の先をいっているという感じ。むしろ新しすぎて読者がついていかれない程の新しさです。物語の芯がしっかりしているため読み応えのある作品が多く、ストーリー性も高いため、代表作のほとんどが映画化されています。ガープの世界、ホテル・ニューハンプシャー、オウエンのために祈りを、サイダー・ハウス・ルール、未亡人の一年など。

ビックリ、どっきりを巧みに盛りこむ天才

劇的な出来事を違和感なくストーリーに盛り込むテクニックにすぐれ、どの作品にも冒頭で読者を驚かせるような「仕掛け」が組みこまれています。「未亡人の一年」においても、物語の核となる少女の登場のさせ方として「セックスの音で目覚める」というシチュエーションを設定しています。エロティックで奇妙な場面を、淡々とした文体で流していくため、とんでもない場面をあっさり読ませます。

「ガープの世界」では、物語の中にもうひとつ別の小説を挿入するというようなアイデアも取り入れていますが、「未亡人の一年」でもいくつかの奇抜な展開があります。ストーリーの主人公は誰なのか?については、よくわかりません。タイトルが主役を象徴しているとすれば未亡人「マリアン」ですが、物語の途中でマリアンはいなくなってしまいます。全体を通して「エディ」という少年の目線で書かれているものの、エディが登場しない場面もたくさんあります。少女ルースは魅力的に描かれており物語の半分においては、ルースが主人公のようです。

ストーリーのあちこちに「爆弾」がしかけてあり、小さなネタがのちのち大きく爆発するという面白さもあります。しかもひとつの爆弾が何度も破裂し、そのつどスケールが大きくなるというスゴい文章です。

現代のディケンズともいうべきジョン・アーヴィング。「未亡人の一年」はエロティックで、コミカルで、かつ物悲しいラブストーリーです。