都合のいい女、雪国

日本で最初のノーベル文学賞を受賞した川端康成の代表作「雪国」。親の遺産でくらす都会の小説家が新潟の旅館で長く過ごし、芸子を愛人にして都合よく遊ぶというだけの話。まとめてしまえば、少しの面白みもないストーリーですが、川端の繊細な文章が最高の文学に仕立てています。

オンナを鏡に自らの感情をあらわす

国境を越え列車で雪国に遊びにきた主人公は、芸者の「駒子」と出会い肉体関係を結びます。主人公は新潟の旅館に来るたびに「駒子」を毎日部屋に呼びセックスにふけりますが、実は彼女には結核で死にかけているフィアンセがいることがわかります。駒子はフィアンセの治療費をかせぐために芸者になりましたが、主人公にぞっこんになり、季節が変わるたびに訪ねてくれる主人公を待っています。

妻子ある都会の金持ちが田舎の旅館で若い愛人をつくり、自分の都合のいいときに訪ねては遊ぶという物語にもかかわらず、俗物的な感じがまるでしません。エロティックな表現もなく、淡々とストーリーが展開します。主人公の存在感が薄く、まるで透明人間のよう。愛人「駒子」の目線で物語が進行し、主人公の考えや感情はすべて駒子の目を通して描かれるという、川端ならではの独創的な表現法をつかっているためです。ノーベル賞を受賞した透明な文体は、この小説の読みどころです。

何度も書き直され、いろんなバージョンのある小説

川端は幼少時に両親を亡くし祖父母に育てられますが、小学生のときに祖母を、中学生のときには祖父も亡くし独りきりになってしまいます。中学では首席だったため教員らの支援で高校に進学し東大英文科に進みますが、途中で国文科に転部。在学中から小説を書きはじめ卒業後も小説家として歩みます。

雪国」は1935年、36才のときから色んな雑誌に少しずつ発表されたもので、何度も書き直された上でまとめられました。1937年に「雪国」として発刊されたのちも、加筆が繰りかえされ最終的には1950年に完成します。有名な書き出し「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」の部分もいくつかのバリエーションがあります。当初は「国境のトンネルを抜けると、窓の外の夜の底が白くなった」でした。

川端がいかに繊細で、細部にこだわる小説家であったのかがわかる逸話です。なお、駒子にはモデルがおり、新潟・湯沢町の高半旅館の芸者「松栄」と言われています。

中学生で孤児になった「神童」のコンプレックスや心の闇が、新鮮な文体となって結実した名作です。